こんにちは、4月から5年生になりました、医学生講師です。
新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言により、休校が続いている今日この頃ですが、皆さん実りある自宅学習ができているでしょうか。
私も大学の病院実習が中断され、オンライン講義やレポート課題の合間に国家試験対策を行っていますが、計画を立てることの重要性が身に染みる日々です。下の記事などを参考に、一緒に引き続き効率的な自宅学習を目指していきましょう。
さて、本題ですが、2020年5月2日16時からzoomにて、医師で当塾の顧問でもある三宅琢先生による、「医者になる前に知っておいて欲しいこと」というテーマの塾生向けWebセミナーが開催されました。
講師である私も参加させていただいたので、今回はセミナーの内容や感想をお伝えしようと思います。
先生のプロフィール
まずは今回お話していただいた三宅先生のプロフィールをご紹介します。
三宅琢先生
医師、医学博士、眼科専門医、産業医、労働衛生コンサルタント
東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員
東京大学先端科学技術研究センター 客員研究員
東京医科大学眼科学教室 兼任助教
産業医科大学作業関連疾患予防学 訪問研究員
公益社団法人Next Vision 理事
一般社団法人産業医ラウンジ 理事長
眼科医として、視覚障害者の新しい医療ケアとして iOS 端末を用いた情報ケアの普及活動および実践医療を行い、産業医・労働衛生コンサルタントとして、IT 系企業から大手 アパレル企業まで多くの企業の職場環境に関するコンサルタント業務を行う。
年間 100 回以上の研修・講演では、新入社員対象セルフケア研修、管理職対象ラインケア研修、人事労務担当者対象メンタルヘルス法務研修、障害者採用担当対象合理的配慮研修等、 幅広い企業ニーズに対する研修会を行う。2017年12月開院の神戸アイセンター病院内の情報ケアセンター「ビジョンパーク」のコンセプトデザインディレクターを務める等、医療、福祉、産業保健の領域を超えたディレクターとしても幅広く活動。
2018年8月より株式会社ベンチャーバンクのCHO(Chief Happiness&Incubation Officer)推進室室長補佐として健康経営の新しい形を模索している。
セミナーの内容
先生は現在、発達障害や身体障害といった現代の医療では治すことができないハンディキャップを抱える人々の働き方や、介護福祉の場でのお年寄りの生活のサポート、毎年100~150近く開催される企業研修をはじめとした産業保健の振興などを通し、人々がより暮らしやすい環境を整えることに尽力されています。
神戸アイセンター内のVision Parkでは、音が鳴るクライミングウォールや目がみえなくても楽しめる絵本などが用意されており、ここは目の見えない患者さんが楽しめるだけでなく、全盲のスタッフも活躍しています。
先生は、ワクワクしたい、成長したい、仲間といたいといった自分のやりたいことを考えた末に今の働き方に行きついたとのことでした。
そこで、今回は医師を目指す私たちに、医師になる前に知っておくべきことを教えてくださいました。
身体と心の健康管理
まずは身体と心の健康管理についてです。現在新型コロナウイルス感染症の感染が拡大していますが、まずは手洗いうがいやマスクの着用、三密の回避等自分の感染を防ぐことに加え、他の人に移さないように心がけましょう。そして、心の健康を保つには、食う・寝る・遊ぶを意識することが大切です。具体的には、
・おなかがすいてないのに食べ続ける
・食べなくてもおなかがすかない
寝る
・なかなか寝付けない
・途中で起きたら眠れない
遊ぶ
・自分が好きなことをしていても楽しめない
ただし遊ぶのは受験生には不向き(下記*参照)
といったそれぞれに対する違和感が1ヶ月程度続く場合、心の健康が崩れているといえるでしょう。
そして、このような時は誰かに相談することが一番です。一人で抱え込まず、早めに相談しましょう。
*受験生が遊ぶ時間を作ってしまうと歯止めが利かなくなったり、遊んだ罪悪感でよりメンタルが崩れてしまったりとリスクの方が大きいので遊ぶことはお勧めできません。しかし、1~2時間に一度は5分程度の休憩を取り気分転換を行うことでよりメリハリのある勉強を行うことは大切なので、受験生の皆さんも適度な休憩を挟みながら勉強してみてください。
Q&A
次に、塾生から募集した質問に答えていただいたので、Q&A方式で紹介していきたいと思います。
Q.寝付けない
寝付けない理由は興奮状態(交感神経優位)にあるから。大きな原因として、スマホやパソコンのブルーライトを就寝直前まで浴びていることや、カフェイン(摂取から約6時間覚醒状態が続く)の摂りすぎなどもある。そのため夜は画面を見ないようにする、カフェイン入りの飲料を飲む場合は就寝6時間前までにするなどの工夫が必要。また、入浴後は副交感神経優位となり寝つきがよくなるため、40℃程度のぬるめの湯船に15分ほど浸かることやシャワーであれば長めに浴びて身体を温めることも改善策の一つ。
Q.合格できるか不安で集中できない
合格できるかどうかは運もあるが、ちゃんと努力するかどうかは自分で決められること。日々最大限の努力をし、この一年で決めよう、ここまで頑張ってもダメだったら諦めようといった前向きな諦めを持つ。結果より過程に目を向け、日々自分のできる最大限の努力を行うことが重要。
Q.パフォーマンスが不安定、安定のコツは?
パフォーマンスが良かった時、何がよかったのかはわからない一方で、パフォーマンスが悪かった時は睡眠不足など、原因が明らかであることが多い。そのため、自分の行動を可視化し、何が原因でパフォーマンスが悪かったかを常に分析することが大切。また、人間の集中力の限界は45分といわれるので、45分区切りで勉強をする、記憶力の高い夜寝る前にその日に覚えたい事項を1枚の紙にまとめ暗記するなどの工夫をして効率的な勉強を行うことも有効。
Q.医師を志したきっかけは?
医師が道化師に扮し笑いで患者を治す姿を映画『パッチアダムス』で見たことや、医師であり漫画家でもあった手塚治虫の存在から、医師免許を取って医師以外の仕事をするという選択肢を知り憧れた。
Q.医師になってよかったこと、やりがいは?
医師免許は現時点で最も安定した資格であり、この資格によって新しいことにチャレンジしやすいこと。医師免許を持っているからこそ自分ができることは何かを考え実行することで、自分の成長にもつながっていると感じる。今後、リモートなどのテクノロジーの発展によってすべての仕事は今ある形から全く異なったものになっていくことが予想される。医師は問診や診断をすることはなくなるため、医師免許を持って自分が何をしたいかを考えることが大切。
ただ、医療は自分や他人の人生に直結する責任の大きな仕事であるため、やりがいもある一方で、リスクも高く大変。
Q.産業医はどんな仕事か?
働いている人の健康、モチベーション維持や、病気を抱えた人が働いていくために会社がすべきことを考えサポートする。診断や治療は行わない。
臨床医は診断や治療を行い疾患の治療を行うが、地域の人々の健康維持・増進に介入することは少ない。産業医であれば、大人も子供も参加可能な地域体操などを通して地域の人々の健康に介入することもできる。
Q.産業医に向いている人は?
人の元気、生きがい、幸せなどを追求したい、社会を治したい人に向いている。
Q.モチベーション維持のコツは?
やる気という言葉は「やる」という行動が「気」より先にあるように、動作を先にやることによって気持ちがついてくる。乾杯やエイエイオー!などの動作は、気持ちが上がったから行うのではなく、気持ちを上げるために行う。例えば毎朝走ることは、走ることで「朝から自分は健康維持に頑張っている!」と気分を上げることができる。このように、自分が気分をあげるために行っていることが何かをメモしておき、一日のはじめなどの区切りに行うとよい。
Q.キャリアプランを考える上で重視していること
まず自分がワクワクできることを探し、医師免許を持つ人間としてそのワクワクにどう携わることができるかを考えること。
Q.学生のうちにやっておくべきこと、考えておくべきことは?
たくさん失敗をすることと、自分が好きなことは何かを考えること。不便なところへ旅に行くことや、自分と全く違う分野の人とかかわることで、失敗したり、今までと違う考え方などを学べる。失敗をすることで、自分が嫌いなことが何かがわかり、逆に自分が何が好きなのか、好きなことを維持するには何をすべきかがわかる。
Q.まず臨床医?最初から産業医?
まずは医師の基礎として臨床医に3年くらい打ち込んだうえで、何が好きで何が嫌いかを明確にして次のキャリアに進めばよい。
Q.これからやりたいこと、ビジョンは?
過去は感染症、現在は生活環境病(生活習慣病)や癌、精神疾患などと、人間は多くの病に苦しめられてきた。しかし遠くない未来、人生は100年時代に突入し、テクノロジーの時代が到来する。医療の形、医療者の役割はまた大きく変わると予想されるが、その中で世の中に発信していくことで、誰かの指針となれたらと思っている。
変化の時代を生きるうえでは、新しい医療の形を探ることが重要。
外科医時代、手の震えでオペができなくなったことで、先のキャリアが見えなくなり目の前が暗くなった。しかし、別の視点で考えたらできることはまだたくさんあると気付き、今の「治さない医療」という新しい道に進むことができ、応援してくれる仲間もできた。一つの挫折はすべての終わりではないため、そこであきらめることなく新しい道を模索することで見えてくるものがあると考えている。
医学部を目指す人へのメッセージ
医師免許は、取ればとりあえずは生きていける安定した資格ですが、持つことはゴールではなく、その後何をするかが重要になります。もちろん受験生の時点では何がしたいかがまだぼんやりとしている人が多いと思います。しかし、Q&Aにもあったように資格を持つことで色々なことにチャレンジできるため、自分が何をしたいか、何が好きかを学生時代に考えておくことは大切です。好きなこと、やりたいことの軸がしっかりしていれば、挫折したときにも立ち直ることができるのです。
また、毎日その後の人生においては一番初めの日であり、何事も始めるには遅すぎることは無く、日々人は新たな一歩を踏み出すことができます。毎日の新たな気付きをその後の人生に活かしましょう。(先生は地元で「明日は人生で最初の日」と書かれた落書きを見て、この考えにたどり着いたとのことです)
そして最後になりますが、失敗を恐れず積極的に色々なことに挑戦する、「無難より有難い人生」を送りましょう。人は失敗から学び、成長するものです。失敗から学び、人生を豊かなものにしましょう。
セミナーの感想
「医師免許を取ることはゴールではない」という言葉に、耳が痛くなりました。
今までの当たり前がどんどん当たり前でなくなっていく未曽有の事態の中参加した今回のセミナーで、受け身の姿勢では何も得られない、自分がしたいこと、できることを考えることの大切さを知りました。
もっと早く知りたかった…と後悔が脳裏をよぎりましたが、何事も遅すぎることはない!ということでしたね、この言葉に救われた気がします。勉強はもちろんのこと、色々なことに挑戦して得られた気づきを活かす能動的な生き方で、自分のできることを探していきたいと思います。
三宅先生、貴重なお話をありがとうございました。
受験生の皆さんも、身体と心の健康管理をしっかりしたうえで、日々の失敗や気づきを分析しその後に活かす勉強をしていってください!