医学部の不正入試について|女性差別・多浪差別問題
平成30年度の医学部入試において、複数の大学において女性や多浪・再受験の受験生に一律減点をしていたことが判明し社会問題となりました。
具体的な不正内容としては、「二次試験(面接・小論文)において、属性によって一律で点数を変える」等が挙げられます。
性別や年齢によって大きく合格率が異なるという点は社会的に問題視され、訴訟問題に発展している大学もあります。
それ以前は、医学部の女性差別や多浪差別問題は、受験生に存在は知られているものの黙認されている状況でした。
しかし、平成30年度大きく問題になったことにより、文部科学省による大規模調査が行われるなど入不正入試問題の是正の動きが広がりました。
各大学の男性合格率・女性合格率と比
文部科学省は平成31年度・令和2年度の入試に関する「国公私立大学医学部医学科の入学者選抜における男女別合格率について」という資料を公開しました。
こちらの資料のデータより、医学部の不正入試の現状について分析を行います。
以下の表では、文部科学省が発表したデータを元に、
・令和2年度の男性合格率、女性合格率、合格率の男女比(男性合格率÷女性合格率)
・平成25年度〜平成30年度の合格率の男女比の平均
をまとめています。
合格率の男女比については、値が1より大きければ男性合格率の方が女性合格率よりも高い、値が1より小さければ女性合格率の方が男性合格率よりも高いということを示します。
*数値の上昇・下降は絶対的な数値ではありません。
特に国公立医学部は分母も少なく、少しの変化で比率は大きく変わるため、こちらの数値からは必ずしも「どの大学が女性が入りやすくなった・入りづらくなった」と判断できる訳ではありません。
国公立大学
大学名 | 男性合格率 | 女性合格率 | 合格率男女比 | 過去5年間の合格率男女比 |
---|---|---|---|---|
北海道大学 | 28.95% | 28.09% | 1.0 | 1.2 |
旭川医科大学 | 19.64% | 16.52% | 1.2↑ | 0.9 |
弘前大学 | 29.33% | 29.68% | 1.0↑ | 0.7 |
東北大学 | 30.27% | 29.36% | 1.0 | 1.1 |
秋田大学 | 32.41% | 25.95% | 1.2↑ | 1.1 |
山形大学 | 29.72% | 24.58% | 1.2 | 1.3 |
筑波大学 | 38.24% | 23.56% | 1.6↑ | 1.3 |
群馬大学 | 40.00% | 26.92% | 1.5↑ | 1.2 |
千葉大学 | 34.62% | 33.62% | 1.0 | 1.2 |
東京大学 | 29.89% | 29.85% | 1.0 | 1.0 |
東京医科歯科大学 | 29.92% | 33.08% | 0.9 | 1.1 |
新潟大学 | 31.31% | 24.79% | 1.3 | 1.3 |
富山大学 | 24.77% | 31.52% | 0.8 | 1.1 |
金沢大学 | 43.63% | 34.29% | 1.3↑ | 1.2 |
福井大学 | 36.59% | 27.59% | 1.3↑ | 0.9 |
山梨大学 | 40.51% | 36.36% | 1.1 | 1.1 |
信州大学 | 32.42% | 33.54% | 1.0 | 1.1 |
岐阜大学 | 20.60% | 19.46% | 1.1↑ | 0.8 |
浜松医科大学 | 36.62% | 29.79% | 1.2↑ | 1.1 |
名古屋大学 | 38.35% | 31.68% | 1.2 | 1.3 |
三重大学 | 38.97% | 33.87% | 1.2↑ | 0.9 |
滋賀医科大学 | 26.63% | 38.35% | 0.7 | 1.1 |
京都大学 | 42.33% | 26.56% | 1.6↑ | 1.3 |
大阪大学 | 35.74% | 22.37% | 1.6↑ | 1.1 |
神戸大学 | 43.29% | 42.71% | 1.0 | 1.0 |
鳥取大学 | 16.58% | 15.60% | 1.1↑ | 1.0 |
島根大学 | 21.69% | 18.91% | 1.1↑ | 1.0 |
岡山大学 | 26.86% | 27.22% | 1.0 | 1.3 |
広島大学 | 24.18% | 25.32% | 1.0 | 1.1 |
山口大学 | 23.73% | 24.52% | 1.0 | 1.2 |
徳島大学 | 58.40% | 60.00% | 1.0 | 0.9 |
香川大学 | 26.14% | 20.55% | 1.3↑ | 1.1 |
愛媛大学 | 17.92% | 20.94% | 0.9 | 0.9 |
高知大学 | 25.46% | 18.49% | 1.4↑ | 1.3 |
九州大学 | 45.50% | 36.36% | 1.3 | 1.4 |
佐賀大学 | 26.20% | 28.86% | 0.9 | 1.0 |
長崎大学 | 38.12% | 28.80% | 1.3↑ | 1.0 |
熊本大学 | 22.07% | 18.44% | 1.2 | 1.2 |
大分大学 | 23.92% | 20.92% | 1.1↑ | 0.9 |
宮崎大学 | 38.55% | 30.61% | 1.3↑ | 1.1 |
鹿児島大学 | 30.90% | 25.97% | 1.2↑ | 1.0 |
琉球大学 | 27.95% | 32.05% | 0.9 | 0.9 |
札幌医科大学 | 32.53% | 25.00% | 1.3↑ | 1.0 |
福島県立医科大学 | 43.00% | 34.78% | 1.2↑ | 1.1 |
横浜市立大学 | 44.62% | 38.18% | 1.2 | 1.2 |
名古屋市立大学 | 45.19% | 37.76% | 1.2 | 1.2 |
京都府立医科大学 | 50.00% | 36.25% | 1.4↑ | 1.2 |
大阪市立大学 | 48.28% | 27.78% | 1.7↑ | 1.4 |
奈良県立医科大学 | 19.31% | 15.15% | 1.3 | 1.3 |
【国公立平均】 | 33.43% | 29.03% | 1.0 | 1.1 |
私立大学
大学名 | 男性合格率 | 女性合格率 | 合格率男女比 | 過去5年間の合格率男女比 |
---|---|---|---|---|
岩手医科大学 | 11.73% | 8.61% | 1.4 | 1.5 |
東北医科薬科大学 | 21.51% | 18.58% | 1.2 | 1.1 |
自治医科大学 | 4.68% | 4.66% | 1.0 | 1.0 |
獨協医科大学 | 8.60% | 7.18% | 1.2 | 1.3 |
埼玉医科大学 | 5.23% | 5.32% | 1.0 | 1.2 |
国際医療福祉大学 | 11.40% | 9.10% | 1.3↑ | 1.0 |
杏林大学 | 5.74% | 6.39% | 0.9 | 1.4 |
慶應義塾大学 | 14.63% | 13.25% | 1.1 | 1.7 |
順天堂大学 | 9.24% | 7.78% | 1.2 | 1.5 |
昭和大学 | 6.81% | 7.16% | 1.0 | 1.1 |
帝京大学 | 3.46% | 3.47% | 1.0 | 1.3 |
東京医科大学 | 12.59% | 11.59% | 1.1 | 1.1 |
東京慈恵会医科大学 | 23.02% | 20.77% | 1.1 | 1.1 |
東邦大学 | 4.65% | 5.44% | 0.9 | 1.1 |
日本大学 | 7.17% | 5.69% | 1.3 | 1.5 |
日本医科大学 | 14.40% | 14.97% | 1.0 | 1.1 |
北里大学 | 14.67% | 12.85% | 1.1 | 1.1 |
聖マリアンナ医科大学 | 6.07% | 9.95% | 0.6 | 1.1 |
東海大学 | 5.60% | 4.73% | 1.2↑ | 1.0 |
金沢医科大学 | 4.59% | 6.32% | 0.7 | 0.9 |
愛知医科大学 | 10.84% | 9.49% | 1.1↑ | 0.9 |
藤田医科大学 | 10.29% | 9.73% | 1.1↑ | 1.0 |
大阪医科大学 | 7.50% | 8.25% | 0.9 | 1.3 |
関西医科大学 | 15.81% | 14.02% | 1.1 | 1.1 |
近畿大学 | 7.72% | 6.28% | 1.2 | 1.2 |
兵庫医科大学 | 11.86% | 13.49% | 0.9 | 1.1 |
川崎医科大学 | 6.87% | 8.83% | 0.8 | 0.9 |
久留米大学 | 6.52% | 6.45% | 1.0 | 1.0 |
産業医科大学 | 8.19% | 7.41% | 1.1↑ | 0.9 |
福岡大学 | 4.93% | 4.77% | 1.0↑ | 0.9 |
【私立平均】 | 9.54% | 9.08% | 1.0 | 1.2 |
医学部入試の女性差別は改善されたか
全体的に男女別の合格率の偏りは改善されている
不正入試報道が出される以前(平成25–30年度)では、国公立大学の男女比較の平均値は1.1、私立では1.2であったのが、令和2年度では国公立が1.0、私立が1.0と国公立・私立ともに女性合格率が上昇した結果となっています。
実際に指導していても、不正入試が摘発される前は「同じくらいの成績帯からの合格率が、男女で大きく異なる」という大学が一部ありましたが、摘発後は改善されている印象です。
不正入試が指摘された大学はどうなった?
平成30年度に不正入試が指摘された東京医科大学、岩手医科大学、昭和大学、順天堂大学、北里大学、金沢医科大学、福岡大学、聖マリアンナ医科大学はペナルティとして文部科学省から出される私立助成金の全額〜25%カットを受けています。
また、不正入試を受けて2020年から上記のような男女の合格率に関する資料が文科省から発表されるようになりました。
このように、不正入試を行うことによるペナルティーが課されるようになったこともあり、大学にとっても不正を起こしにくい体制になっていると言えます。
受験校を選ぶ際のポイント
摘発された不正入試については、国公立医学部への指摘がない等、完全なものではありません。
しかし、全体的な傾向としてはやはり女性差別はなくなっていると判断するのがよいでしょう。
「この大学は女子が合格しづらい」といったような情報は古い情報の可能性が高いので、出願時は誤った情報に惑わされないよう注意をする必要があります。
医学部合格可能性を最も左右するのは、「大学の受験難易度」です。
上記の男女別の合格率の表は、受験校選びにおいてほとんど参考にはならないと言えるでしょう。
受験校選びの際は、「医学部偏差値ランキング」などを参照し、受験難易度を軸に決めていくのがおすすめです。
医学部偏差値ランキング
国公立・私立医学部の偏差値ランキング一覧と、ランキングの活用方法を解説した記事はこちら。